【後世に伝えたい精進料理講座】と題しまして初回は「母の味」とも言われている「ごま乳」についてフォーカスをあて、料理方法、応用活用についてご紹介します。
伝承的に、ごま豆腐を作る際に、生の白ごま(黒ごまも可能)を、擂鉢、擂り粉木で、丁寧に擂り、そして晒し木綿で濾したものが、「ごま乳」です。さらに、葛粉を加え熱を加えながら練り上げ、独特の弾力とごまの優しい風味の「ごま豆腐」が出来上がります。「ごま乳」の、出来栄えで「ごま豆腐」の味や弾力も左右しますので、とてもデリケートな作業です。なかなかご家庭では馴染みがなく、既製品のごま豆腐を安易に求めがちです。手間もかかり、擂鉢、擂り粉木も台所から今や消え失せています。しかし、この手間も暇も、実は大切な味になって、五臓六腑に染み渡ります。
ごま乳に込められた成分は、他の穀類などと比較しても、栄養価に富み、とりわけ、カルシウムは、ズバ抜けています。牛乳や豆乳に代わる重要な健康飲料と言えるでしょう。かつて、母乳に取って代わって使われていたとも聞きます。それほど、貴重な「ごまの乳」です。是非、ご家庭で気持ちを込めて、ごまを擂り、"母の味=ごま乳"を五官で感じ取ってください。きっと、ごまに秘められた計り知れない慈愛によって、身も心も癒されることでしょう。
さらに、近い将来、大量生産のごま乳製品が出回るでしょう。精進の精神が悉く失われ、それらを安易に買うことで、皆様の心身の健康が確実に失われていきます。これを機会に、是非、意識を高めて、真に食に向き合ってみてはいかがでしょうか。体は、嘘が通用しません。また体に嘘をついたら、必ず正直にその結果を示してきます。掛け買いのない何より大切な体に、本物を届けましょう。皆様の手間暇こそ体も心も清まり喜びます。それに何より安価に出来ますよ。擂鉢と擂り粉木で、無限の喜びを体験しましょう。できる限り「買わない!」と言う選択が、無理なくできることを願っています。
指導:精進料理人 棚橋 俊夫